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透明風車開発の道のり
こんにちは。ハリボーです。
前回の記事で富山デザインコンペ2020挑戦記を公開しました。
私は富山の景観を守る透明風車を設計して最終審査に臨みました。
しかし残念ながら賞を取れずに終わってしまいました。
協力者や話題、賞金も得られなかったので、今後このプロジェクトをひとりで進めることはないでしょう。
たった1人でたった3ヶ月間とはいえ、本気で地域課題解決のために取り組んだプロジェクト。
このまま眠らせるのも勿体ないので、本ブログで公開することにします。
コンセプト
本プロジェクトでは、透明な素材を用いた再生可能エネルギーにより、景観を守りつつ脱原発を目指す日本のエネルギー問題を解決します。
高速道路等に設置し立山連峰などの美しい景観を維持しながら、周辺地域での電力の地産地消、すなわちマイクログリッドを形成します。
カギとなる技術は「垂直軸風車」と「化学強化ガラス」です。
この2つのシナジーによって生まれた新型風車、通称「ラピスミル」の基本性能は以下の通りです。
基本性能はあくまでも推定です。実機を用いた検証は未実施です。
設計詳細
発電能力
ラピスミルの定格は1kWです。
パワー係数Cpはおよそ0.25程度を予測します。
一般的な揚力式垂直軸風車の平均程度です。
基本的な使用方法として、1基だけでの使用は考えておりません。
100基で1ユニットとして、概算で一般家庭243件分程度の発電能力程度です。
空力特性
ラピスミルの形状はキャンバー翼3枚の揚力式垂直軸です。
ダリウス式風車を参考にしつつ、化学強化ガラスの曲げ加工の容易さを考慮し球体型にしました。
翼形状はNACA0012を参考にしたキャンバー翼を採用。
xflr5を用いた解析結果は以下の通りです。
ただ正直なところ、この形状の風車に対し二次元解析をすることにほとんど意味はないでしょう。
シミュレーションの限界を越える形状なので、風洞実験による解析を行わなければ信頼できる数字は出ないと考えられます。
風車の製造方法詳細
以下が化学強化ガラスでの風車の実装方法です。
曲げ加工の精度がポイントとなります。
揚力式風車の場合、数ミリの凹凸で大きく空力特性が変化してしまう可能性があります。
実際に製造して検証する必要があります。
追加効果
景観を守ることとエネルギー以外にも透明風車の利点はあります。
風をエネルギーに変換することで風災害の防止につなげることも期待されます。
防風壁のように完全に防ぐことはできませんが、強過ぎる風を安全圏まで弱めることが狙いです。
防風効果特化タイプの「ドラグラミスミル」も設計しました。
抗力式風車のため加工精度が低くてもある程度回転できるメリットがあります。
透明風車の課題
透明風車にはデメリットもあります。
解決しなくてはいけない課題がまだまだたくさん残っています。
コンペ・メンタリングでの指摘事項
- ガラスが汚れそう
- 鳥がぶつかることはないか(バードストライク)
- ガラスが高速回転しているのが怖い
- いくら化学強化ガラスでも割れる
- 高速回転したら透明でもそうでなくても景観はあまり変わらない
「ガラスの汚れ」に関しては保護フィルムやワイパーの検討である程度解決できそうです。
バードストライクはプロペラ風車より先端速度が遅いことから危険はかなり低いと考えられます。
「怖い」という心理的な問題の解決は難しそうです。
割れるリスクは大きな課題でしょう。破壊試験結果がプロジェクトの成否に直接影響します。
高速回転したら通常のラピスミルでは透明かどうかは景観にあまり関係ないかもしれません。
ドラグラピスミルのような抗力式か、翼枚数の多い揚力式でなければ透明である利点を活かせないのは確かでしょう。
乗り越えなければいけない大きな課題
審査委員長が「まだまだハードルが2つ3つありそうかな」とコメントされました。
実際は2つ3つどころではないハードルの山が待ち受けています。
先ほどの指摘事項の他にも、特に大きな課題を2つ挙げます。
- 一般風車の発電能力に遠く及ばない可能性が高い
- 稼げない
設計上の発電能力はかなりの理想的な数字に過ぎません。
ガラスの重量や加工精度によって、実際回転させてみたら全然発電できないということも大いに考えられます。
そして一番の課題は「稼げない」ことです。
FIT制によりある程度の売電収入が見込めるとはいえ、初期費用と多額のメンテナンスコストがかかることは避けられないでしょう。
風力発電でキャッシュフローが回せているのは大型のウィンドファームや洋上風力ばかりです。
小型風力をビジネスとして成功させるまでの道のりは非常に険しいです。
これから
コンペで敗北し、私の透明風車への挑戦は一旦幕を下ろしました。
本記事が誰かの開発のヒントになれば幸いです。
もしも将来、何かのきっかけでプロジェクトが再スタートすることがあれば、次こそ実用化まで進めてみたいです。
美しい景観と持続可能な未来を目指して。